お侍様 小劇場 extra

    “午後のサスペンス” 〜寵猫抄より
 


何だか変梃りんだった夏だったせいか、
九月に入ってたった半月しか経ってないにもかかわらず、
やけに遠くなったような間合いへひょこっと、
秋の連休“シルバーウィーク”というのが、今年はいきなり発生し。
高速道路料金の割引とか、エコカー減税とかの余波、
秋の行楽は車なんて、出掛けるお方がたも多かろう。
それ以外へも、
もはや随分遠い話になってますが
“交付金”というのの支給があったのを反映させた、
お得な旅行プランというのもまだまだ探せばあるせいか。
バスやJRにての旅行へというお歴々も多かろう。
今年は少し遅い紅葉、
それでも爽やかな好天の下、
のんびり羽根のばしをするには絶好の連休でもあるようで。

 「……と、皆さんが意を揃えておいででしょうしねぇ。」

そういう時期だったんだよという話題を求めているのなら、
出先での出会いとやらの機会も増えての、
話の種もたくさん拾えることでしょが。
特にその頃合いでなければ時間が取れない身じゃあないのなら、
何もそんな時期へとわざわざ参戦するこたない。
ネット検索などで“穴場”も根こそぎ人目へさらされている昨今なだけに、
日程を少しズラすだけで、随分と静かに過ごせるというなら、
我々はもう少し秋が深まってから運びましょうよと。
シルバーウィーク当日は、大人しく自宅で過ごすことと相成った、
こちら、島田先生ご一家の初秋のご予定だったりし。

 『ああ、だったらDVD鑑賞なんてのはどうですか?』

こっちは“シルバーウィーク”目当てというより、
例年通りに“秋の夜長”を目当てにという感じで、
海外ドラマや懐かしシリーズもののボックスがどかどか出てますし、と。
そういった作品のカタログとたんと揃えてくれたのが、
個人的な知己でもある出版社の編集員、林田くんという担当さんで。
カタログのみに収まらず、
自社の関連会社が製作にかかわったのも何作か、
まま観てみて下さいなと進呈して下さって。

 『あ、これって昔凄っごく人気があった幼児番組ですよ。』
 『ほほぉ。』
 『意外なものがDVDになってるんですねぇ。』
 『というか、なんでお主がこの幼児番組を知っておる。』

放映当時は学生だったろにと、
ケースの裏面の説明書きを読んで、怪訝そうな声を出す勘兵衛へ。
七郎次は屈託なくも、、ほわんと笑って見せるばかり。

 『ああ何、熱中して観ていた訳じゃあありませんて。』

朝の支度の傍らに、時計代わりにテレビをつけていて、
定時のニュースが終わってからチャンネルを変えて、
最後の体操が始まる時間帯に家を出ると、
ちょうどタイミングのいいバスに乗れたのですよ。
そんな風にけろりと応じてのける七郎次は、
生え抜きのテレビ世代だが、

 『時計代わり…。』

どうやら勘兵衛の側は、
必要でもないのにテレビを点けておくというのに、
今ひとつ馴染みがない世代なようで。
こんな些細なところへも、世代差が一応は出る二人であるらしい。

 “…なんか直前のお話を引きずってませんか?”

あっはっは、気にしちゃイヤンvv
(笑)
そんなこんなと言いつつ、
広いリビングのテレビの前にて、
色々なタイトルをあれこれ眺めている二人の傍では、

 「みゃ?」

テーブルの上だけでは収まらず、
周りのラグの上へまで広げられてるDVDの、
薄いプラスチックやアクリルのケース。
お膝の周りに散らばったそれらに囲まれて、
ちょこりと座った久蔵坊や。
彼には結構な大きさか、
そして、となると まだ上手には掴めない仔猫様。
ふくふくとした小さなお手々でペシペシと叩いてみたり、
表紙に使われた写真にわんこがいたの、
ちょいちょい・ツンツンと小さな指で差して見せたり。
1枚へぺたりと手を伏せて、
それをラグの上で すべらせるように擦りつけつつ回したら、
角へとこつこつ、別のが当たって弾かれるのに気づいてしまい。
赤い双眸、大きく見張ってから、
はうぅvvと御機嫌なお声を上げて見せたり。

 「〜〜〜〜〜〜vv///////」
 「うむ。愉しみようが随分と間違ってはおるがの。」

泣きそうともとれよう困ったようなお顔のまんま、
口許へ拳を当てた金髪美貌の恋女房殿から、
ほらほら勘兵衛様見て下さいなと、
シャツの袖を引かれる格好で無言で促され。
そうかそうか、久蔵もDVDは好きかと、
こちら様もまた、精悍なお顔を微笑ましいとほころばせる御主様。
愉しみ方が微妙に
(?)ずれているとは判っていながらも、
満足しておるなら結果オーライと思う辺り、
そこは勘兵衛も七郎次とさして変わらぬ感性でおいでなようで。

 ……こんの親ばか夫婦が。
(苦笑)

 「みゃ、にゃにゃっ!」

ひとしきり、かちこつこんこん、
エアホッケーでも楽しむかのように、
DVDのケースをフローリングの広いリビングのあちこちへ、
飛ばして遊んでいた小さな坊やだったが、

 「あ……。」

そんな中に、
覚えのあるタイトルを見つけた七郎次。
やっぱり仔猫がコンッと、斟酌なく弾き飛ばしたそれを、
すっと身を伸ばすと素晴らしい反射ではっしと捕まえ。
傍らにおいでの御主へと差し出して見せる。

 「勘兵衛様、これ。」
 「おや。」

和装の登場人物らが、真摯なお顔で何にか警戒しきっておいでという、
ドラマの一シーンらしいスチール写真を表紙に使われたそれは、
実は原作がこちらの島田せんせいの作品だったりする。
幻想小説というジャンルにおわし、
ジュブナイルからRPGゲームの原作さえこなすお人だが、
時代劇としても秀逸の、しっかりした設定を踏んだ筋立ての話が多いので、
過去にも何作か映画にもなっているし、
一度だけ、TVドラマへの原作としても使われたことがある。
そもそものお話は、やっぱりといいますか、
大妖に憑かれてしまった男女とお家大事の騒動とが絡まり合う、
妖異ものをベースにした時代劇だったのだが。
一体どんな監督が担当して下さったやら、
『元禄あやかし奇譚』などという微妙なタイトルつけられて、
登場人物の名前くらいしか、
オリジナルの痕跡は残ってないよな代物にされており。
割と楽しみにして観た放映当時は、
失礼ながら随分とがっかりさせられた印象しかなかったが、

 「…あ、これって○○さんが出てたんですね。」
 「○○?」
 「ええ。ほら、刑事ものの『▽▽▽』に出てるじゃないですか。」
 「?? ………ああ、あの警部補役の。」

当時は、原作がどういじられているかにばかり
関心があったので気づかなかったんでしょうかね?
いやさ、まだまだ無名なお人だったからだろうさ、などと。
少ぉし時代がかった面差しやメイクの俳優さんたちへ、
懐かしそうなお話が弾む。

 「確かこれって、捕物帖っぽく仕立て直されてたんでしたよね。」

とある藩のお城で起こった奇怪な事件が、
江戸の大店で起きた事件へと差し替えられていて、
しかもしかも、何だかこじつけもはなはだしいトリックで、
真犯人らが起こしたのだとされた怪現象。
それでもって先妻をノイローゼにして病死させ、
後添いにと入った女が、実は盗賊団の首領の色女、
旦那を同じ病にて殺そうと仕掛かるが、
それを怪しんだ一人娘が、
幼なじみで頭の切れる主人公に相談する。
実はそのお人、お奉行様の手先も務めておいでだったんで、

 「最後の最後、探っていたのが逆に捕まるんですが、
  馬鹿な奴らよと殺されそうになるところへ、
  奉行が捕り方を山ほど率いて助けに飛び込んでくるんでしたよね。」

原作は数冊がかりのシリーズもので、
登場する人物らの想いや立場が様々に錯綜し、
壮大な背景もありの、何年もの歳月を織り成す大作。
話題の一大 大河小説なんて言われもしたのに。
それが…何とか犯科帳じゃあるまいに、
いかにも定番中の定番な仕立てへと、
展開から何から差し替えられていたんですよねと。
放映当時はぷりぷりと怒っていた七郎次だったらしい。
今にして思えば、
そういう話題作の“話題”なところにだけ着目した面々が、
大して読み込みもしないまま手掛けてしまったのだろと。
苦笑交じりにやれやれなんて言えるお年頃にまで、
今やすっかりと落ち着いた彼らであり。

 「でも、あれだけは いただけませんよね。」
 「あれ?」

ああ、御主の手が操ると、なんて小さく見えるケースなんだろ。
逆にそれを掴み切れぬほど、
小さな小さなお手々の久蔵を、ひょいとお膝へ抱え上げ、

 「ほら。
  主役の活劇担当さんが、敵方に捕まってしまうクライマックスで。」

原作は、何百年という歳月で地脈へと蓄積されし怨念が生み出した魔物が、
ほんのささやかずつ働きかけての、
最後にはそれが大きく絡まり合って発動するという大仕掛け。
人の手ではどうにも止められぬところへまで事態がねじれ、
そんな状況へ、他でもない自分たちが追い込んだという事実への、
歯咬みしたくなるほどの慚愧
(ざんき)の盛り上げようがまた。
奥深くて素晴らしいとの、微妙に歪んだ絶賛まで受けた、
なんともややこしい超大作を、
2時間少々に収めようってのが土台無理なお話で。
それでの已なく、
ごくごく普通の時代劇版サスペンスの雛型を、
骨組みに持って来てしまった監督さんだったんだろうと思われて。

 「いくら何でもあの“冥土の土産”が出たのには、
  それって“助かるぞフラグ”では?って、呆れちゃいましたもの。」

お膝に乗っけた仔猫さん、
1枚だけカラフルな表紙のケースを持ってたままだったのを
“どーじょ”とこちらへ差し出して来るものだから。
あらら、ありがとvvと応じる笑顔は、
はんなりと細めた目許や品よくたわめられた口許も、
すこぶるつきに嫋やかで甘いのに。

 “時々、容赦のない物言いをしおるからの。”

そこがまだまだお若いからか、
辛辣な物言いも 結構こなすは、一体誰の影響か。
とはいえ、

 「フラグとはまた、今時の言いようだの。」

この戦いが終わったら結婚しようとか、
この航海から戻って来たら、一度実家へも帰りますとか。
それを言った人物は、必ず亡くなってしまって戻って来られず、
お話へ涙を添えてしまうと…いうアレと似たような、
所謂“お約束”のことであり。

 「今時、水戸黄門でも滅多に出て来ない展開ですけれどもね。」

付け足された言いようがまた、ますますの辛辣さだが、
そうと言いたくなるのも まま判らないではない。
月刊誌へ数年に渡って掲載されたその連載小説は、
事前の取材にも相当な時間をかけ、
執筆中もかなりの深さで集中し、
時には…数日かけてしたためたもの、
一気に破棄しても惜しまぬほど、綿密な推敲を繰り返し。
ともすれば締め切り破りも辞さぬほどという、
勘兵衛にとっても入魂作でもあったので。
そんな入れ込みようを
間近で見ていて支えた七郎次なればこそ、
ありきたりな代物にされちゃあたまらないと、
ついつい言いたくもなるのだろう。

 「でも、実際の話、
  あんな風に“冥土の土産じゃ”なんて、
  べらべらと得意げに一部始終を話すものでしょうか。」

小説やドラマでは、読み手や視聴者への解説もいるだろうから、
それでと設けざるを得ないのだろうが。

「苦労惨憺、やっとのことで成就しようって瀬戸際なので、
 ついつい我慢が利かずに話してしまうのでしょうか。」

いやいや、真相を探っていたネズミ相手に、
どうだこんな格好で判って口惜しかろうという、
ダメ押しの意味もあるのかも知れぬ。
ああでもない こうでもないと、
ミステリードラマによくある、
セオリーフラグへの見解を語り合っている大人の二人を、
その狭間から見上げていたおチビさん。

 「みゃあん?」

何に感じ入ったものか、かっくりこと小首を傾げて見せてから、
間近にあったテーブルの足元、
パウンドケーキの入ってた箱に気がついて…。




 「…? 久蔵?」

懐かしいお話についつい熱が入ってしまったもんだから、
ごめんね放っぽり出してたねと、
自分のお膝で大人しくしていた仔猫様の金の綿毛を見下ろしたところが、

 「みゃぁあん♪」
 「………それって?」

平たい菓子箱の下敷き、
仕切りのためにとの工夫だろう、
山折り谷折りが幾条も入っていた細長いボール紙。
それをいつの間にやら引っ張り出しての、
端っこと端っこをこの坊やには随分と器用に掴みしめ。
頭の真上の曲線へ、押しつけもっての添わすようにし、
屏風のように立てている。
角とかあるいは猫耳のついた、
髪飾りのカチューシャを連想させるよな見栄えだが。

 「…おお、そうか♪」

こたびは珍しくも勘兵衛の方が先に気がついたそれは、


  「冥土の土産を、メイドの〜〜と思ったらしいの。」
  「……駄洒落ですか? 駄洒落ですね? それ。」

だから勘兵衛の方が先に あっと気づいたのだろうか。
(笑)
とはいえ、

 「さて、駄洒落が判る子だろうか。」
 「じゃあ何だってんですよ。」
 「久蔵の場合、
  めいどって音の言葉はそっちしか蓄えにないのやも知れん。」
 「あ…。」

壮年殿のおさすがな回答へ、
お口を真ん丸く開けての、棒を飲んだようなお顔になった七郎次であり。
そんな敏腕秘書殿のお膝では、

  「にぃあんvv」

メイドだったらメイドで、それってどこで覚えた坊やなのやら。
目許をたわめ、口許引き上げ、
見ている側までとろけそうな笑顔になった、
軽やかな綿毛にやわやわな頬の、天使のような仔猫様。

 「〜〜〜〜〜vv////////」
 「判った判った、髪も一緒に掴んでおるぞ。」

またもや、口許押さえて、御主様の肩口掴み、
見ました?見ました?と訴えることで、我に返るのもまた、
問題なのでは? 七郎次さんたら。
(大笑)






  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.09.19.


  *相変わらず、ワケ判らんタイトルつけててすいません。
   白状しますと、
   実は向こうの島田さんチで
   久蔵殿にやらせようと思ったネタだったのですが、
(おいこら)
   そんな都合よく、
   メイドさんコスプレ用のカチューシャがあるとも思えず。
   何より、そこまでお茶目をする人でもなかろうと、
   こちらのお猫様に振り直させていただきました。
   シニタイノカの刑は免れられましたよねぇ?

   「でもでも、少しは見たかったかもですねvv」
   「シチさんたら、大胆なお言いようを。」
   「〜〜〜。///////」

   数刻後。

   「久蔵様、このような調達に“草”をご使役なさらぬように。」
   「こたびだけですぞ?」

   調達したんかい。
(苦笑)

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

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